ピント合わせて:おすすめ

去年辺りから大学内のマイクロライブラリーなるものを運営するグループに所属していて、そこでは自身のおすすめ本のブースなんかも作ることができる。ぼくは無論SFやリアル系のものばかり置く予定なのだが、今日は少しばかりフライングして、ここでおすすめ本の紹介。とは言っても、単に好きだからなんて理由ではなく、今だからこそ読むべき本を紹介する。まあ、紹介と言っても、ちらほら名前を出している本になる。ただ見方を変えておすすめさせてもらおう。

「また伊藤計劃さんじゃねえか!」そう思っただろう。ぼくも思った。

しかし、これこそ本当に今読んでほしい。最近、巷でこの作品は「コロナ後の世界を描いている」と言われている。確かにその通り。

大災禍(ザ・メイルストロム)と呼ばれる世界的な大騒乱によって核弾頭が様々な国に流出し、戦争で大量に使用された結果、地球上では突然変異のウイルスが蔓延。人々を脅かし始める。窮地に立たされた人類は病気そのものの駆除に踏み込み始めた。発達した化学によってナノマシンが開発され、病を克服した人間は高度医療社会にシフトしていく。その後、生府という生命主義を掲げた共同体が生まれ、人々は何の脅威もない安寧と充足を得ていた。

ざっくりと、ハーモニーはこのような世界。そう、世界的な災禍であるコロナを終えた世界とも見て取れるのだ。これ、「世界的な」という部分がミソなのだ。これがなければ作品が世に出されてから10年以上経ってから再び注目されることなどないわけで。こんな風に現実に重なって見えるのがSFの好きなところ。

現実に重なるといえば、この作品は別の見方もできるのだ。というか、ぼくが言いたいのはこっちがメイン。

ハーモニーの世界では、道徳や倫理が過剰なほどに重んじられている。それこそ、舌打ちが精一杯の悪態なレベルなのだ。電車では席を譲るよう努め、殺人なんて起こらなければ、ちょっとした犯罪もない。更に、人間に害をなすものは全て嫌われる。酒やタバコは違反レベルの代物。ちょっとした料理だって、食べる前に警告がなされる。これは健康に害をなす可能性がありますが、みたいな、そんな具合。生命主義に則って、優しさに溢れた世界を作り上げた結果、なんでもかんでも規制とセンシティブ。主人公曰く「真綿で首を絞めるような、優しさに息詰まる」世界らしい。

これがどのように現実と重なるのか。ぼくはこの「何でもかんでも規制とセンシティブ」という世界観がそうだと思う。

ぼくは変なベクトルに働いたポリコレ思考が大嫌いだ。この間見たバイオハザードの映画も、ジルが黒人女優に変わっていたし、レオンはヘタレになっていたし。どうやらヒロインが白人だったり、男ができるやつだと五月蝿い層が存在するらしい。

もはや小説以上に意味不明な規制。そういう息苦しさを感じるのが今の世界。是非みんなはハーモニーを読んで、現実世界と大災禍後の世界を見比べてほしい。誰かの言う「優しさ」が跋扈する世界。ぼくがどちらのことをそう言っているのか、必ずわからなくなる。

本を読め!とは言わない。けれど少しピントを合わせれば、少しは面白い読み方ができると思うし、視野もそれなりに広がるかと。

ハーモニー、是非どうぞ。