奇人でも:電車の彼のタブレットを見て

電子書籍が好きじゃない。ひどく無機質に感じられて、文字の羅列を眺めている気にしかならないから。あと、単純に目が痛い。

ページをめくる感覚は何物にも変え難い。この単純ながらも些細な面倒に感じられてしまう作業は、ぼくがそれを行う度、確かにぼくをぼくたらしめるものが蓄積されているのだ。栞に隔てられた紙の整列の片方を見れば、それはもっと確かなものになる。

紙本もその内、デッドメディアになると思う。製本なんて煩わしい産業が廃れて、全部電子の海に放り投げられる。人間の心は、まるで面倒だけに対する潔癖を皆んなが抱えているようで、無為の皮を被った有為に、簡単に騙されている。

紙の本が死ねば、それを持っていたぼくも、死んだような気持ちを引きずる羽目になるだろう。そんなのはまっぴらごめんだし、公共の敵であったミァハと同じ"奇行"に、きっと走ると思う。でも、それでいい。ぼくを構成するリソースが少しでも欠けてしまうなら、奇人でもなんでも良いや。