夏原永良:浅知恵、長風呂とセンス・オブ・ワンダー。

SF好き大学生バンドマンの陰湿な頭の中。

どうせ消えない

夢の中で、去年の1月に亡くなった祖父が現れた。

亡くなったのが23日。コロナの所為で、最期は看取れなかった。救急車で運ばれたと聞いた時、母親は奇妙なほどに「大丈夫」と繰り返していた。叔母が119番に電話した後、祖父はバターロールと牛乳を胃袋に押し込み、自力で歩いて車に乗ったと聞いたので、ぼくは安心して夕飯の支度をしていたけど、今思えばそれを聞いた時、既に病院で意識を無くしていたのだろう。

亡くなった後、ぼくは祖父の大事にしていたカメラの一つを貰った。朝4時から近所の緑地公園に出かけて写真を撮るのが祖父の日課で、ぼくにはそんな元気は無いんだけれど、時折同じ場所で写真を撮る。少し古いカメラだが、当時のプロがよく使っていた同じ型らしく、友人に聞いたり調べたりしたところ、なんと50万円以上。オプションのバッテリーが付いていたり望遠レンズもあるから、全部くっつければぼくの両手に100万円相当の代物が抱え込まれることになる。恐ろしい。

祖父の話とか自慢は大好きだった。生まれた島がどんなところだったとか、そのあと家出した話とか、故郷に帰った時に食べた魚が島の魚じゃなかったのを見抜いた話とか、姫路城の綺麗におさまった写真自慢とか。そう、カメラ自慢はいつもしていた。締めくくりの言葉はいつも、「わしが死んだらこのカメラ全部やる」だった。できればそんな日は、来ないでほしかった。

だから夢に現れた時、カメラの話をした。何々を撮った。けれど上手く使いこなせない。はっきりとは覚えていないけど、こんなことを言っていたと思う。祖父は笑っていた。声もあの時のままだった。

目が覚めたとき、夢で出会った祖父は、ぼくの脳溝の皺のパターンでしかないことに絶望した。海馬から記憶を引き出して、勝手に作り上げた偶像でしかないことを恨んだ。

一年が過ぎたのに、ぼくは祖父の死を乗り越えられない。時折強がって救急車に乗る直前に余裕で食事していたことを笑い話にしてみるけど、空虚という言葉に相応しい行為を知る羽目になるだけ。

酒を飲み交わす約束を守れなかった。島に連れていってもらう約束を守れなかった。死んだ時の約束しか守れなかった。

後悔も悲しみも、どうせ一生消えない。けれど果たされた約束のカメラは、呪縛とか戒めとか、そんな風に捉えたくない。ネガティブに捉えるのはぼくの癖だけれど、これだけはそうはさせない。祖父との最期の繋がりだ。

故人に関するスピリチュアルな話は信じない。結局は自身の都合の良い解釈にすり替えて、知り得なかった本当の遺志を、そっちのけにするような真似にも等しいと思うから。

祖父はもういない。そんな世界で、ぼくは繋がりを引っ提げて生きる。消えないならそれでいい。ハナから忘れるつもりはない。

祖父から貰った幸せが、どうか消えませんように。